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鹿児島家庭裁判所 昭和43年(家)446号 審判 1969年3月10日

申立人 秋田米子(仮名) (昭三二・四・七生)

外一名

申立人ら法定代理人親権者母 大里君子(仮名)

相手方 白鳥享一(仮名)

主文

本件申立てを却下する。

理由

(一)  申立人等法定代理人は、「相手方は、申立人両名の扶養料として一人につき毎月金一万円づつを支払え。」との審判を求め、申立ての実情として、「申立人両名の法定代理人である母及び相手方である父は、昭和四一年四月二三日名古屋家庭裁判所において調停離婚し、その際、親権者を母と定められ、以来申立人等は、母に養育監護されている。ところで、母は、現在肩書住所地において喫茶店を経営しているが、収入乏しく、申立人両名の最低限度の生活費にもことかくありさまであり、やむなく他からの援助によつて生計を維持している状態である。よつて、申立人等の生活費の不足分を相手方に補つてもらうため、本件申立てに及んだ。」と申立てた。

(二)  調査の結果によれば、

(イ)  申立人両名の父母は、昭和四一年四月二三日名古屋家庭裁判所において調停離婚し、その際申立人両名の親権者を母美子と定め、今日まで母の養育監護に服していること、

(ロ)  母君子は、同人の姉石倉英子等親族の共同出資を得て、名古屋市近郊の肩書住居地において喫茶店を経営しているが、近時同業者の乱立による過当競争のあおりをうけ、業績は必ずしも芳しくなく、月収三万円程度であること、しかるに申立人等の生活費(教育費も含む。)は月額一人少なくとも一万円を必要とし、上記収入をもつてしては、とうてい申立人等母子の生計をまかなうことができない状態であること(もつとも、個人事業における所得が極めて捕捉困難であることは、一般に周知の事実であるが、他にこれを認定しうる資料のない本件においては、いちおう申立人法定代理人の供述するところに信を措くほかはない。)

(ハ)  一方、相手方は、○○○市内に居住し、○○系紡績会社の労務担当駐在員として勤務しているが、再婚した申立外白鳥良子と昭和四三年一〇月事実上離婚し、現在単身アパート暮らしをしていること、しかして、同人の収入は、月額約四万一、八〇〇円(社会保険料控除後の手取)であるが、このなかから、家賃月額一万円、旧負債の弁済月額一万円、保険料三、八〇〇円を支出しているので、相手方の消費生活に充当しうる額は、約一万八、〇〇〇円であること(もつとも、独身生活者である相手方にとつて家賃月額一万円は、過大支出の感がないでもないが、業務の性質上必要経費とみてよい面がある。又旧負債月額一万円の弁済については、その真偽に多少の疑問ももたれるが、当庁からの再三に及ぶ手続費用予納の督保に対し申立人法定代理人から何等の応答もない現状では、その点を確かめる術もない。)が、それぞれ認められる。

(三)  そこで、相手方から申立人両名に対し、扶養料を負担すべきかいなか、又負担するとすれば幾何をもつて妥当とするかを判断する。

(イ)  まず、労働科学研究所が発表した昭和二七年東京都における最低生活費を基礎として、本件各当事者の現居住地における現在の最低生活費を算出すると、別紙のとおり、申立人両名はいずれも六、七四六円、同人等の母君子は一万二、三六七円、相手方は一万四、〇五四円となる。

(ロ)  そこで、申立人両名の属する世帯の収入三万円から、各構成員の最低生活費を控除するとその残額は四、一四一円、又相手方の収入から同人の最低生活費一万四、〇五四円を控除するとその残額は、三、九四六円となり、双方の生活単位において生ずる余裕は、ほとんど等しい。もつとも申立人等の家族構成は、母子三人であるのに反し、相手方は単身であるからより厳密な計算を試みるときは、相手方から申立人両名に対し、若干の金員を支払わせることとなろう。

(ハ)  しかしながら、(a)その額は、あえて計算の結果をまつまでもなく申立人法定代理人の主張する月額一人一万円には、はるかに及ばない僅少な額であつて、かえつて双方の生活水準には有意的較差がないことを証明する結果となる。(b)のみならず、前記調査の結果によれば、父母の調停離婚の際、申立人両名法定代理人は、申立人両名の養育費として、合計五九万六、四一九円(相手方が当時勤務していた会社から受け取つた退職金五五万〇、八二九円及び給料残額四万五、五九〇円の合計)を相手方から受領していることが認められるところ、申立人法定代理人が収入に応じて申立人両名の生活費を自らも負担しつつ、上記相手方から受領した養育費を周到な計画のもとに費消している限りは、離婚以来僅か三年足らずで完全に費消し尽すことはありえない(前記申立人両名の一人当りの最低生活費月額六、七四六円をすべて養育費五九万六、四一九円をもつてまかなつたと仮定しても上記養育費は、四四箇月分に相当する。しかも、申立人法定代理人自身も収入がある以上申立人等の生活費を分担すべき義務があるから、この期間は、更に延びることとなろう。)から、この点を考慮に入れるならば、申立人両名は、将来も相手方におけるよりも高い生活水準を享受しうると考えられる。(c)もつとも、申立人法定代理人は、相手方から受けた前記養育費は、今までの生活費、引越費用に充てたため殆んどなくなつたと述べているが、かりに、これを真実とすれば、申立人両名は、申立人等法定代理人とともに、従来相手方に比してより高い生活水準を享受してきたものといわなければならない。したがつて、申立人等が前記養育費を費消し尽したことにより将来同等の生活水準を維持しえなくなるとしても、現在においては、相手方は、申立人両名の生活水準に比してより高いそれを享受しているものではないこと前認定のとおりであるから、前記養育費を費消し終つたことをもつて、扶養料請求の根拠とすることは許されない。すなわち、相手方は、申立人両名に対し自己と同等の生活水準を享受させるいわゆる生活保持義務を負うこと勿論であるが、それ以上のものを与えるべき義務は存在しない。

(ニ)  以上諸般の事情を考察すると、本件においては、将来事情の変更がない限り、相手方において申立人両名の扶養料を負担すべき義務はないものというべきである。

(四)  よつて、申立人両名の本件申立ては失当として却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 橋本享典)

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